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物理授業でのWindowsパソコンの利用を探る


 ここ数年一般的になったWindows95で動作するパソコン(以下Windowsパソコン)の物理授業での利用法を探った。機種によらず共通性のあるハードやWindows95に標準で付属するソフトを用いることにより、これまで機種依存でしかありえなかったソフトを共通化し、特別のハードを付加しなければならなかったある種の物理計測をより簡易に行うことができた。具体的には力学シミュレーションを1例、物理計測を3例紹介する。


目次

1.なぜWindowsパソコンか
2.運動のシミュレーション
3.マイク端子とサウンドレコーダーの利用
4.音声の取り込みと解析
5.物体の運動解析
6.パラレルポート利用のA/Dコンバータ接続
7.おわりに


1.なぜWindowsパソコンか

 次のような点から授業においてもWindowsパソコンの利用が有効であると考えられる。
・ 世界的標準機として一般に広く利用され、今後もしばらくは標準機であり続ける。
・ 特にPC/AT互換機は世界各社の統一機種でハード的にも互換性が高い。(場合によっては パーツレベルで互換性がある)
・ PC98系使用の場合でも互換性は高く、外部ハードウェア制御を含まないソフトウェアの場合は100%の互換性がある。
・ 外部ハードウェア制御を含むソフトウェアであっても、ハードがPC98系とPC/AT互換機しかないと仮定すれば、両方を満足するソフ トウェアを書くことが可能である。
・ アイコン等によるグラフィカルユーザーインターフェース(GUI)で操作が直感的で容易である。
・ ソフトウェアの基本的操作法がOSメーカー(マイクロソフト社)によって提示されているので、それに従ったものであればソフト間による操作法に大きな違いがない。
・ 擬似的にではあるが、マルチタスクである。
・ ソフトウェア作成(Visual Basic利用)の場合
 ・ グラフィクスが強力である。
 ・ ユーザーインターフェースの設計・作成が非常に楽である。
 ・ ソースリストの編集が容易である。
 ・ デバッグ機能が強力である。

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2.運動のシミュレーション

 Windows95の基本的操作法に準拠し、すべての操作がマウスで可能な運動シミュレーションを作成した。作成にあたって目標としたことは次の点である。
・ 多少数値的な厳密さには欠けても、力と運動の関係をイメージとして描けるもの。(定量的な扱いはその後でという行き方もあるのではないか)
・ TVゲームのようにいつでも思うような時に画面の物体に働きかけることができ、それに対し物体はすぐ反応して運動が変化する。
・ 特定の運動に特定のプログラムというのではなく、高校物理に出てくる基本的な運動に対応できるある程度汎用性のあるもの。

 シミュレーション(実行ファイル名<Fdt>)の内容は次のようなものである。(図1)
・ いろいろな力学ポテンシャル中での物体の運動をシミュレートする。(無重力での慣性運動、各種重力場での運動、電場中の荷電粒子の運動等)
・ 物体の運動中いつでも望む方向に望む大きさの力(力積)を物体に加えることができる。それに対し物体の運動はリアルタイムに反応する。
・ 入力はすべてマウスで行い、メニュー構成等もできるだけWindows標準のものに近づける。

 操作の概要は以下の通りである。
 起動すると、画面やや左上にボールが現れる。マウス左ボタンを押したまま少しマウスを移動すると、移動した方向と長さに応じた矢印が現れる。左ボタンを押したままマウスをいろいろ移動させると、マウスの移動に応じて矢印の方向と長さが変化する。ここで適当な所で左ボタンから指を離すとボールの移動が始まる。矢印はボールに与える力積を表している。ボールの移動中もマウス左ボタンを押してマウスをドラッグさせると力積の入力ができる。力積の入力確定までは(マウスの左ボタンから指を離すまでは)ボールはそこで停止している。時間の流れが一時停止したと考えてよい。力積はFdtで表されるが、微小時間dtはメニューで設定する。したがって、画面に現れる矢印は力Fと考えてもよい。
 メニューバーの[場の設定]から[地上重力]を選択すると、それまでの画面は消去され、ボールも停止したままになる。ボールを置きたい場所にマウスの矢印を移動し(たとえば画面のまん中に)、マウスを左クリックすると、その場所にボールが置かれる。さきほどと違い、今度は重力場なのでボールを置いただけでボールは自由落下運動を始める。次にボールを放物運動をさせてみる。メニューバーの[初期化]の[位置初期化]を選択する。マウスカーソルを画面左上に移動させ、左ボタンを押したままマウスを水平に右方向に少しドラッグさせ右方向への力積をボールに与えると、ボールは水平投射され、放物運動を始める。
 物体の運動中に右クリックを行うと物体の運動は停止する。再度右クリックで運動を再開する。

 用意したメニューとその機能を次に示す。
[初期化]
 [位置初期化] 物体の位置の初期化を行う。物体を置きたい場所にマウススカーソルを移動し左クリックすると、その場所に物体が置かれる。それまでの運動の軌跡は消去されないまま残る。
 [画面・位置初期化] 上記に加えて、それまでの運動の軌跡が消去される。
 [Fdt起動] 新たにFdtを起動する。複数の画面でそれぞれ異なった運動を同時進行で見ることができる。
 [Fdt終了] Fdtを終了する。
[場の設定] 力の場の設定を行う。それまでの運動の軌跡は消去される。物体の位置の[初期化]も連続して行う。
 [無] 無重力の状態が設定される。(初期設定)
 [地上重力] 地球表面での重力場が設定される。ここでは自由落下運動、投げ上げ、投げ下ろし、ろいろな放物運動等がシミュレートできる(図1左上)。
[人工衛星] 物体の形はボールから人工衛星の形になり、いろいろな初速度を与えると、その運動をシミュレートできる。運動中に適当な力積を与え、軌道を変化させることもできる(図1左下)。
[中心力(引力)] 画面中央の点が中心力の中心。適当な初速度を与えると物体は楕円運動する(図1上中央)。
[中心力(斥力)] 画面中央の点が中心力の中心で、物体はここから斥力をうける。α粒子の原子核による散乱をシミュレートできる(図1右上)。
[月ロケット] 地球や月の大きさやその距離、各引力の大きさは現実の大きさに応じたものではない。適当な初速度を与えると、物体は8の字型の軌道を描く(図1右下)。
[dt設定] 計算間隔dtと力積Fdtのdtの設定を行う。dtは相対的なもので、dt=1〜10の中から選択する。初期設定はdt=5である。
[質量設定] 物体の質量mの変更を行う。mは相対的なもので、m=1〜10の中から選択する。初期設定はm=5である。
[ヘルプ]
 [Fdtの紹介]  Fdtの使用法を表示する。
 [バージョン情報] バージョン情報を表示する。

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3.マイク端子とサウンドレコーダーの利用 

 Windows95対応のパソコンにはマイク端子とスピーカーが標準で装備されており、ハード的に音声の取込と発声ができるようになっている。Windows95にはそれをサポートするソフトウェア<サウンドレコーダー>が付属しており、音声データをWaveファイルとしてディスクに保存することもできる。サウンドレコーダーを標準で使用する限りではテープレコーダーのように音の録音・再生を行うだけであるが、Waveファイルを自作プログラムで解析することにより波形を表示させたり高速フーリエ変換を行い周波数スペクトルを表示させることもできる。また、音以外の物理現象に対しても、それを何らかの方法で音の変化に変えることにより、複雑な付属回路無しで高速に測定できると考えられる。以下にそれらの具体例を示す。

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4.音声の取込と解析

 Windows95付属のサウンドレコーダーで取り込み、作成したWaveファイルを解析し、波形を表示させたり高速フーリエ変換を行い周波数スペクトルを表示させるソフト(実行ファイル名<Nsdv>)を作成した(図2)。

 用意したメニューは以下の通りである。
[ファイル](図2左下)
 [閉じて開く] 現在のWaveファイルを閉じて新たなWaveファイルを読み込む。現在のWaveファイルは保存されない。
 [開く] 新たにNSDVを起動しWaveファイルを読み込む。
 [WAVEファイル作成] Windows95付属のサウンドレコーダーを使ってWaveファイルを作成する。8ビットモノラルで録音して、適当なファイル名で保存すること。サンプリング周波数は問わない(図2右下)。
 [音声出力] 現在のWaveファイルをパソコン本体付属のスピーカーから出力する。
 [NSDV終了] NSDVを終了する。
[表示] ファイルの全体を表示する。実際に波形を表示する部分の先頭位置をマウス左クリックで指定する(図2右2段目)。
[目盛] グラフ横軸の1目盛を<0.1ms,0.5ms,1.0ms,5.0ms,10ms,50ms,100ms,500ms>の中から選択して設定する。 
[FFT] 高速フーリエ変換を行い、周波数スペクトルを表示する。マウス左クリックで5周期分を指定してからこのメニューを選択すること(図2右上)。
[ヘルプ]
 [NSDVの紹介] NSDVの使用法を表示する。
 [バージョン情報] バージョン情報を表示する。

その他
 波形表示画面で、マウス左クリックで2点を指定すると、その2点間の時間を表示する。この指定はFFT用の指定を兼ねている。2点を指定後、もう一度マウス左クリックすると、2点目の指定をキャンセルする。画面上で、第1点目の指定点より左側を左クリックすると第1点目の指定がキャンセルされる。

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5.物体の運動解析

 フォトトランジスタに入力される光が運動物体によりON・OFFされ、それにともない1kHz程度の方形波の出力がON・OFFされるIC一個で実現される簡単な回路をマイク端子に取り付け、方形波の有無から物体の運動を測定するためのソフト(実行ファイル名<Nsdk>)を作成した。測定回路から出力される方形波による音声信号をWindows95付属のサウンドレコーダーで取り込み、作成したWaveファイルを解析することにより物体の運動を<距離−時間>、<速度−時間>、<加速度−時間>等のグラフで表すものである(図5)。落下運動のような等加速度運動の場合は、<速度−時間>のグラフから最小二乗法により直線の傾きを求め、加速度を算出することもできる(図5右下)。これまで記録タイマーと紙テープによりなされてきた実験は、その作業量の多さから場合によっては実験の本質を見失わせることが指摘されていた1)。このソフトを用いることにより実験上の適度の作業を残しつつもテープ処理の機械的作業から解放され、実験操作や考察等に十分な時間を割くことができるようになると思わる。マイク端子に取り付ける回路(図3)と物体の落下運動を調べる例(図4)を図に示す。用意したメニューは以下の通りである。

《主画面のメニューについて》
[ファイル]
 [閉じて開く] 現在のWaveファイルを閉じて新たなWaveファイルを読み込む。現在のWaveファイルは保存されない。
 [開く] 新たにNsdkを起動しWaveファイルを読み込む。
 [WAVEファイル作成] Windows95付属のサウンドレコーダーを使ってWaveファイルを作成する。8ビットモノラルで録音して、適当なファイル名で保存すること。サンプリング周波数はいくらでもかまわない。
 [音声出力] 現在のWaveファイルをパソコン本体付属のスピーカーから出力する。
 [Nsdk終了] Nsdkを終了する。
[表示]
 [メモリー全域] ファイルの全体を表示する。実際に波形を表示する部分の先頭位置をマウス左クリックで指定する。
 [WAVE表示] Waveファイルをそのままグラフ表示する。
 [ON/OFF表示] 信号の有無をON/OFFで表示する。初期設定されている(図5上)。
[目盛] グラフ横軸の1目盛を<10ms,20ms,50ms,100ms,200ms,500ms>の中から選択して設定する。この設定は全ての種類のグラフで共通である。
[グラフ] 各種グラフを表示する。マウス左クリックで表示範囲を指定してからこのメニューを選択すること。マウス左クリックで2点を指定すると、その2点間の時間冲も表示される。2点を指定後、もう一度マウス左クリックすると2点目の指定をキャンセルする。画面上で第1点目の指定点より左側を左クリックすると第1点目の指定がキャンセルされる。
 [s-tグラフ] 縦軸<距離>、横軸<時間>のグラフを表示する(図5右中)。
 [v-tグラフ] 縦軸<速度>、横軸<時間>のグラフを表示する。
 [a-tグラフ] 縦軸<加速度>、横軸<時間>のグラフを表示する。
[s,v,a-tグラフ] 上記三種のグラフを時間軸共通で同時に表示する(図5左下)。
 [v-tグラフ・加速度表示] 落下運動等の等加速度運動において縦軸<速度>、横軸<時間>のグラフを表示し、最小二乗法により求めた加速度も表示する(図5右下)。
 [ON/OFF設定] フォトトランジスタに入力する光をさえぎるテープの光を通さない部分と通す部分の長さを設定する。
[ヘルプ]
 [Nsdkの紹介]  Nsdkの使用法を表示する。
 [バージョン情報]  バージョン情報を表示する。

《<グラフ表示>画面のメニュー》
[グラフ変更] 主画面の[グラフ]メニューと同じ。[閉じる]でこの画面を閉じる。
[縦軸1目盛] データの最大・最小値を探し出し、縦軸1目盛の値をきりの良い適当な値に設定する。この標準の値で都合が悪い場合はメニューにより変更することができる。この設定はこの<グラフ表示>画面を閉じない限り、[グラフ変更]した場合も有効である。

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6.パラレルポート利用のA/Dコンバータ接続

 外部ハードウェアの制御には次のような点からパラレルポート(プリンターポート)の利用が手軽で取り組みやすいと考えられる。
・ 8ビット処理で気軽に使える。
・ ノートパソコンでも利用可能。
・ 双方向仕様もあり、入出力ポートとして利用可能。
・ プリンタ切り替え器利用で増設も容易。

 接続したA/D変換回路は県教育センターのコンピュータ計測・制御講座で紹介されたものをベースにした2)。ブロック図を示す(図6)。

 パラレルポートに接続するA/D変換回路はこの他にも県内で数種発表されており、中にはプリント基板で提供されているものもある。いずれもセントロニクス規格に対応したものであるのでPC98シリーズやPC/AT互換機どちらにも接続しコントロール可能のはずである。
 上記の回路に対してはWindows95でコントロールするプログラム(実行ファイル名<Nadw>)を作成ずみなのでその概要と測定例を紹介する(図7)。Visual BasicにはI/O制御のための命令が用意されていないので雑誌「トランジスタ技術」で紹介されたDLLファイルを用いた3),4)。

メニューバーに用意したメニューは以下の通りである。
[ファイル]
 [新規測定] 現在のデータはそのままに、新たに測定Windowを開く。
 [閉じて開く] 現在の測定Windowを閉じて、新たに測定Windowを開く。
 [保存] 測定データを保存する。
 [Nadw終了] Nadwを終了する。
[チャンネル] ADC0809の4個の入力チャンネルから1個を選択し設定する。チャンネルを設定するとそれまでのデータは消去される。
[測定間隔] 測定間隔時間を<0.1sec,0.2sec,0.5sec,1.0sec,2.0sec>の何れかから選択し設定する。測定はフォーム上にマウスカーソルが存在する時、左クリックで測定開始、右クリックで測定停止する。測定停止後、再度左クリックで測定を再開する。測定はデータをリアルタイムで画面にグラフ表示しながら行い、Windowの幅いっぱい表示したところで停止する。測定間隔時間を設定するとそれまでのデータは消去される。
[Y目盛] 画面に表示する縦軸目盛の形式を<0〜5V型,-2.5〜+2.5V型>の何れかから選択し設定する。Y目盛を設定するとそれまでのデータは消去される。
[ヘルプ]
 [Nadwの紹介] Nadwの使用法を表示する。
 [バージョン情報] バージョン情報を表示する。

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7.おわりに

ここで紹介した利用法はWindowsマシンの教室への配備が勤務校ではまだなので授業中生徒の前では行えないでいるが、DOS版の機種では音による運動解析を除いては同様の機能を既に筆者が作成し実践中のものであり、いずれも生徒には好評である5),6),7)。しかし、生徒実験として体験させる場合、シミュレーションはソフトウェアの準備だけですむが、音声解析については県内で作製されたA/D変換ボードNADVを生徒の実験班数分教育センター等から借りなければならず、またその装着や調整等の準備も複数になると大変繁雑であった。Windowsパソコンが生徒用に教室で使えるようになればそうした準備の繁雑さもかなり解消されるものと思われる。とはいってもこのことはNADVがこれまで果たしてきた役割や現在における価値を否定するものではない。実際、今回の複数のソフト作成が同時進行であってもDOS版に比べてはるかに短時間で済んだのはNADVで積み上げた経験によるところが大きかった。
 これまで色々な所で授業でのパソコン利用がうたわれても実際の利用が少なかったのはハード的にもソフト的にもまだその段階に達していなかったのではないかとも考えられる。パーソナルコンピュータの理想像を示したアラン・ケイの有名な論文が出てから20年になるが8)、そこでは子供たちの利用がまず語られている。Windowsの普及によりケイの言う表現のメディアとしてのパソコンは、彼の予言にいっそう近付きつつあるように思われる。今回の取り組みで実感したことは、人間に近付く方向で以前よりはるかに進歩したハードや支援ソフトにより、考えたことが格段に表現しやすくなったということである。県内中学校にも既に生徒用Windowsパソコンの配備が始まっていると聞く。パソコンの授業での本格的利用はこれからであると考える。これまでの色々な実践を共通な財産としつつ今後に向けての新たな取り組みが必要なのではのいだろうか。
 紹介したプログラムはすべてVisual Basic Ver.4.0で記述し、実行ファイル化したものである。運動シミュレーション・音声解析・物体の運動解析の三つのソフトをセットにしフロッピーディスク4枚で提供できる。Windows95上でならいずれもPC98シリーズ・PC/AT互換機で機種を問わず動作する。セットアップや削除の方法もWindows95上で正規に動作する他のアプリケーションと同じである。

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参考文献
1)川勝博,三井伸雄,飯田洋治:学ぶ側からみた力 学の再構成,新生出版(1992)
2)新潟県立教育センター:コンピュータ計測・制御 講座テキスト(1990)
3)渡辺明禎:トランジスタ技術,12月号(1996)
4)渡辺明禎:トランジスタ技術,3月号(1997)
5)江川直人:新潟県理化学協会会報第12号(1990)
6)江川直人:物理IBフロッピー 解説,実教出版(1994)
7)江川直人:第32回北信越理科教育研究会新潟大 会研究紀要(1992)
8)アラン・ケイ,浜野保樹,鶴岡雄二:アラン・ケイ, アスキー(1992)

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