『ポンポン蒸気船』のようなものの製作

 理化部のA君が前にどこかで製作記事を見たことがあるといって作ったのが次の写真の船です。

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銅製の管の中に水を入れておき,ロウソクの火で管を熱すると,水を吐いたり吸ったりしながら前進するはずだというのです。薄い鉄板を船の形に整形し流れるような見事なハンダ付けで完成させました。写真ではわかりませんが小さなロウソクを置く台まで作ってあります。大学の物理学科を出てもハンダ付けがうまく出来ない学生が多いとはよく聞く話ですが,見事なハンダ付けです(船尾の管と船体のハンダ付けを見てください)。しかし,実際に船を水に浮かせて走らせようとするとちっとも走りません。確かにときどきプシュッと水を吐くことは有るのですがそれだけです。年配の方なら子供のころ遊んだブリキのあの玩具だとわかるのですが,現代の高校生はそんな玩具は見たこともないはずです。戸田盛和先生の「おもちゃの科学」になら原理が載っているはずだと思い,調べてみました。有りました。第1巻p.97から「ぽんぽん蒸気船」の表題で載っています。以下の図と「」の文章は「おもちゃの科学」からの抜粋です。少し長いですが引用します。

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「・・・・・
    ・・・・・ローソクの火でボイラーを熱すると,中の水が一部気化して,その圧力で勢いよく船尾から吹き出し,船は前進する。そのとき,一部気化した水が勢いよく出すぎるので,その慣性によって,ボイラーの中は一瞬圧力が低下しすぎる。このため,つぎの瞬間には,ボイラーの中へ船尾から水が吸い込まれる。そしてこの水が気化して噴出するということを繰り返すわけである。・・・・・

    ・・・・・船尾から水を吹き出すときジェット式に前進するのは運動量の保存からいって当然であるが,水を吸い込むときは運動量の保存からいって,船は後方へと力を受けるはずである。噴出と吸引の速さのちがいと,船の形のために,後方へ戻ることはおさえられて,船は前進だけをすることになる。・・・・・

 ・・・・・しかし,K氏からもらったアメリカの機械の雑誌には,バイメタルの振動によってエンジンの駆動が可能になるかのように書いてあり,駆動の原理は前に述べたのと少しちがって考えられている。これには次のように書いてある。バイメタルは熱いときには上向きに,ボイラーの体積を大きくする方へ曲がり,冷えると下向きに,ボイラーの体積を小さくする方へ曲がる。バイメタルは始め下向きに曲がっていて,熱せられると上向きにそり返るので,このときに水を吸い込む。冷たい水がボイラーに入ると,バイメタルは下向きに曲がるので,水が押し出され,船が前進する。

 ポンポン船がこのように作動しているのか,それともはじめに述べたように作動するのかどうか。うまい吟味方法がありそうなものである。
 S氏はパイプを中央で一度コイル状に巻いて,そこを加熱すれば,水を振動的に吹き出すことを確かめたということである。バイメタルがなくとも自励振動を起こすことは確かなようである。・・・・・」

 ということで,原理はわかりました。A君は3年生であったのでここで探求は中断し,某国立大学の理学部に進学しました。次の年,理化部でこれを引き継いだのがB君です。B君は太かった銅製の管を工作も簡単なアルミ製の細いものに変えて,船体もより軽く簡便に缶詰の缶を使うことにしました。ロウソク台だけはA君のを使用しています。A君は銅管をU字に曲げただけだったのですが,B君は「おもちゃの科学」にあったようにアルミ管を中央で一度コイル状に巻いてみました。下の写真のように船は小さく振動しながら前進しました。

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