NADVを用いたパソコンの2現象オシロスコープ化
県内の研究グループにより作製されたパソコン計測用のA/D変換ボードNADVと汎用OPアンプICより成る自作回路を用いて,パソコンを2現象オシロスコープ化するソフトを作成したので報告すると共に,それを用いた測定例を紹介する。
写真1 OPアンプ回路 写真2 コイルに流れる電流と電圧
1.はじめに
県内の研究グループによるパソコン計測用のA/D変換ボードNADVは約500セット作製されたが,その多くが県内の高校理科教員に頒布され,いつでも利用できる状態にある。NADVにはA/D変換用に4チャンネルのアナログ入力端子があるが,そのチャンネル1とチャンネル4にオペアンプを用いた増幅率可変の一種の差動増幅回路を接続することにより,音声程度の周波数の信号2チャンネル分をほぼリアルタイムにパソコンの画面に表示することができたので紹介する。NADVはNECのPC−98シリーズのパソコン用なので,最新のパソコンには対応しないが,Windowsの普及に伴い,今後校内で使用されなくなる古いパソコンを物理実験に用いることの可能性を考えれば,多いに利用価値があると思われる。
2.概要
ハード的,ソフト的概要は以下の通りである。
ハードウェア NEC PC-98シリーズ+NADV+自作回路(インスツルメンテーションアンプ2回路)
OS MS-DOS 3.3C以上
Windows95ではMS-DOSプロンプトのフルスクリーン表示で実行可能
使用言語 N88BASIC+マシン語
サンプリング周波数 30kHz,150kHz(機種によっては30kHzのみ)
入力チャンネル数 2チャンネル(NADVのチャンネル1と4使用)
入力電圧範囲 -10V 〜 +10V(5段階切り替え)
VOLTS/DIV 0.02V 〜 4V(表示9段階切り替え)
TIME/DIV 0.2ms 〜 50ms(6段階切り替え)
CPUが80386以上の機種なら,音声程度をほぼリアルタイムに表示する。それ以下のCPUでも動作はするが表示が遅く,オシロスコープとしてはぎこちない。画面を一時停止することもできる。
3.作製回路
図1 回路図
回路図(図1)の通りである。この回路を2チャンネル分作製し,出力をNADVのCH1とCH4の入力に接続する。使用ICはテキサスインスツルメント社のTL084でFET入力のOPアンプが4個入ったものである。OPアンプ1〜3で参考書1)2)3)通りのインスツルメンテーションアンプを構成している。このアンプの利得αは次式で与えられる。
RB 2RA
α=−−(1+−−-)
RA RX
RA=100kΩ,RB=24kΩであり,RXはディップスイッチで2kΩ,10kΩ,22kΩ,180kΩ,4.7MΩを切り替えられるようにしている。RX,α,入力電圧ei,OPアンプ3の出力電圧eO1の関係は次の通りである。
ei × α = eO1
RX= 2kΩ, α=25, ±0.1V×25 =±2.5V
RX= 10kΩ,α=5, ±0.5V×5=±2.5V
RX= 22kΩ,α=2.5, ±1V×2.5=±2.5V
RX=180kΩ,α=0.5, ±5V×0.5=±2.5V
RX=4.7MΩ,α=0.25, ±10V×0.25=±2.5V
さらに,OPアンプ4でeO1を2.5Vレベルシフトさせて最終出力eO2を0〜5Vにしている。OPアンプ4の+入力端子に接続されている可変抵抗を変化させて出力の0電位を調整する。この可変抵抗によって本物のオシロスコープのように画面上の波形をリアルタイムに上下させることもできるが,ここでは半固定とし,ソフトによって対応している。回路の詳細については適当な参考書1)2)3)4)をご覧頂きたい。
4.測定画面表示例と操作法
図2は周波数1000Hzで同位相の三角波と正弦波を入力した場合の画面表示例である。画面右下に表示してあるように,SPACEキーを押すと波形の流れが停止する。停止した状態でT,V,C,P,Qの各キーを押すと,それぞれTIME/DIV,VOLTS/DIV,CH-MODE(1チャンネルのみの表示か2チャンネルの同時表示か),POSITION(2つの入力電位の0Vを共通にするか,上下に分けるか)の切り替え,およびソフトの終了を行う。
5.プログラミング
プログラムの流れの概要を次に示す。
変数初期設定・画面初期表示
↓
(*)データ取込(マシン語)
↓
データ画面表示(グラフ化)
↓
キースキャン
↓
キー入力があれば,そのキーに応じたメニュー処理
↓
(*)
プログラムは,特別なことは何もしていない単純なもので,ただ最近のパソコンの速さに助けられてオシロスコープらしく見えているだけである。最近のパソコンと言ってもWindows95の動作する程度のものと言うことではなく,CPUにV30を用いたような極端に古いものでなければなんとかそれらしく見える。
計測ボードNADVのハードとソフトの詳細に関しては次を参照して頂きたい。
物理分野におけるコンピュータ計測の実験と応用:県立教育センター研究双書33,1994
物理分野におけるコンピュータ計測の実験と応用U:県立教育センター研究双書41,1995
作成したプログラムは紹介したOPアンプ回路が無くとも動作可能で,NADVボードにマイクを接続して音声波形を表示させることができる。
(プログラムのダウンロードはこちらからどうぞ。ただし,動作にはN88BASICが必要です。)
6.測定例
図3はマイクによる音声の「アー」とオシレータによる500Hzの正弦波を表示させたものである。音声は約125Hzであることが読みとれる。マイクからの信号はNADVのCH1にマイク用のアンプが装備されており,スイッチで入力を切り換えられるようになっているので今回の回路は通していない。
図3 「アー」の音声と500Hzの正弦波
通常のオシロスコープではマイナス端子が共通になっているため,図4のような接続が不可能であるが,この回路では可能である。図5は50Ωの抵抗と3.3μFのコンデンサーを直列に接続し,オシレータで500Hzの交流電圧をかけた場合を見たものである。当然であるが,きれいにπ/2だけ位相がずれているのがわかる。コンデンサーのかわりに実験用のコイルを用いても同様のことが確認できる(写真2)。
図4
図5 コンデンサーに流れる電流と電圧
7.おわりに
次のようにすればより使いやすくなるとは思うが,時間がないのと何が目的かわからなくなるのでここでやめている。
・アンプの利得をロータリースイッチで切り替えて,更にそのスイッチの状態をパソコンに読み込ませ,電圧レンジ切り替え表示をを自動化する。
・プログラムをC等のコンパイラー言語で書き換え,描画をより高速にし,画面ももっと凝ったものにする。
・回路のノイズ対策をもっときちんとする。
どなたか挑戦して頂きたい。
NADVはまだ入手可能である。希望者は新潟高校の麩沢祐一先生に問い合わせて頂きたい。
参考文献
1)天良和男・矢野越夫:はじめてのパソコン計測・制御,東京電機大学出版局(1987)
2)天良和男:知的実験ツールとしてのパソコン活用,東京電機大学出版局(1991)
3)物理教材研究会:物理計測システム実用設計,CQ出版社(1989)
4)岡村廸夫:定本OPアンプ回路の設計,CQ出版社(1990)