発展的学習のための高校物理ミニワンポイント

1.理論物理演習風問題

2.落下運動思考実験

3.生徒による問題作成

4.物理的解法と解析的解法

5.運動量の保存・はねかえり係数・エネルギー

6.物理ワンポイント数題

7.熱の気体分子運動

8.波の干渉の条件式

9.電気力線の流線イメージ

10.コンデンサーに蓄えられた静電エネルギーはコンデンサーのどこに存在するのか

11.「キルヒホッフの法則」の指導について

12.フレミングの左手の法則と右手の法則

謝辞とお願い


 1.理論物理演習風問題

(問題) 図1の装置で,加速度aと張力を求める。
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   問題の解答は

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   である。図2のような場合,張力及び加速度aはどうなるか。計算をせずに答えよ。

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  (解答) mm部分をまとめて先の問題のmと考えれば,

 IMAGE008.GIF - 337BYTES → IMAGE010.GIF - 391BYTES

 IMAGE012.GIF - 373BYTES → IMAGE014.GIF - 435BYTES 

    さらに,mmを一塊にして考えると,

 IMAGE015.GIF - 373BYTES → IMAGE017.GIF - 473BYTES 

  3元連立方程式を解くやり方は,数学としては正しいが,物理の発想としては貧困である。

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 2.落下運動思考実験

(問題) 物体の自由落下の様子は質量によらないことを,下の図をもとに説明せよ。

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(解答)
  ひもの長さを次第に短くしていった極限を考える。そうすると,物体どうしがくっついたからといって急に落下の様子が変わるというのは不自然である。したがって質量が2倍になっても同じ落下の仕方(同時に地面に着く)をすると考えなければならない。(ガリレイの思考実験より直観的ではないだろうか。)

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 3.生徒による問題作成

 生徒に問題を作らせ,あわせて解答もさせる。それによって,より理解が確実になると考える。3年生の最後に実施したところ,力学分野の問題が大部分であった。そのため,力学分野でこのことを実施すると,より効果があると考える。次の問題は生徒が作ったものの一つである。

 

(問題)
  距離AB間を8秒かかる等速運動している車がある。その車がAB間を1/4の距離を走った後,AB間の中央上の高さ
y[m]にあるボールMが水平投射される。このボールMがB地点で車に衝突するとき,ボールの高さyと水平方向に投げ出される速度vはいくらか。重力加速度をg[m/s]とし,AB間をx [m]とする。

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(解答)
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 4.物理的解法と解析的解法

 物理的解法はいわゆるうまい方法であるが,臨機応変に対応しなければならず,いつでも見つかるとはかぎらない。物理的解法も大切であるが,多少数学的計算量が多くなってもより一般的な解析的解法も生徒に体験させたい。

 

(問題)

図7のように,水平面と角度βだけ傾いた斜面上で,斜面に対しαの角度,初速度vでボールを投げ上げたときの斜面上の到達距離を求めよ。

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(物理的解法)

 図8のように,元の図を角度βだけ回転させて,斜面が水平になるようにすると,ボールの水平方向の加速度がg sinβ,鉛直方向の加速度がg cosβの運動に置き換えることができる。あとは,水平方向も加速度運動であることに注意すれば,どの教科書にもある斜方投射の例題と同様に解けて,この問題の場合はこちらの解法のほうが計算も容易である。

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(解析的解法)

 図9のようにxy座標軸をとると,ボールの飛跡はyaxbx(係数abv,α,βで表せる),斜面はycxc=−tanβ)で表せる。この交点Pのx座標xを求められれば,xcosβで求めることができる。この問題の場合,解析的方法は計算はやっかいであるが,斜面が直線でない場合にも対応でき,より一般的である。

 

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 5.運動量の保存・はねかえり係数・エネルギー

 どの教科書にも書いてある次の問題を必ず解かせる。

(問題)

静止している質量の物体に,速さv,質量mの物体が衝突する。二物体のはねかえり係数をeとする時,衝突後の二つの物体の速度を求めよ。(衝突は一直線上でおこるものとする。)

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 この問題を何も見ないでサッと解けるようになって欲しいのだが,なかなか初めはうまくいかない。2年で物理を履修する場合など,

 (1) 運動量の式は立つが,はねかえり係数の式が作れない。

 (2) 二つの式はできたが,それを解く計算力がない。

 (3) 解いたが,計算間違いに気付かない。

など,いろいろなハードルがある。逆に言えば,これを解くことで,式の立て方,計算力,計算間違いのチェック等を経験できる訳である。特に,解いた答えをもとに,e1.0ではどうなるか,mではどうなるか,実際の運動方向はどうなるか等,考えながら計算間違いのチェックをすることは,物理的な考え方を育てる上で大変有効であると思う。ただ,一度やっても全体をきちんと理解するのは大変である。時間をおいて何度かやる必要がある。また,衝突によって失われるエネルギーを計算させるのも重要である。これはまた,eが1かどうかでエネルギーが保存されるかどうかを自分で計算してみるいい機会となる。

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 6.物理ワンポイント数題

(1) 相対速度

 相対速度の式BA21において,添字については,BA21()()と考え,Aの速度,1の速度に重点があることに着目する。これは,たとえばゾウガメというのは亀のことで,クマネズミというのは鼠のことを指しているのと同じに考える。相対速度の式 BA21において,は,が主体で,−や−で修飾している。つまり,Bや2を自分と考え,Aや1を「相手」と考えると,自分が動いているときには「相手の速度」から自分の速度を引いたものが自分から見た「相手の速度」になると考える。

 

(2) 等速円運動の周期の式

 =2πrv=2π/ω は v=2πr,ω=2πと直してみると,

        速さ×1回転の時間=1回転の距離

       回転の速さ×1回転の時間=1回転の角度

と考えられる。物理の公式は,ちょっとした常識(知識)ででき上がっている。ただし,物理的意味はv=2πr,ω=2π/ではある。

 

(3) コンデンサーの接続

 電気容量は電荷のたまり易さを表す。したがって,1/は電荷のたまりにくさを表す。並列接続では,それぞれのたまり易さの和が全体のたまり易さになるから,である。直列接続では,それぞれのたまりにくさの和が全体のたまりにくさであるから,1/=1/+1/である。

 

(4) オームの法則

 抵抗(レジスタンス)は電流の流れにくさを表すから,流れ易さは1/で示される。したがって,

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(単位電圧当たりの電流の強さ)と考えられる。

 

(5) 抵抗の接続

 は流れにくさ,1/は流れ易さと考えると,直列接続では,それぞれの流れにくさの和が全体の流れにくさであるから,である。並列接続では,流れ易さの和が全体の流れ易さだから,1/=1/+1/である。

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 7.熱の気体分子運動

 分子の運動から気体の圧力を導く方法は,見かけ上いくつかある。個の分子があるとして,たとえば,

(1)立方体に分子が入っていて,/3個ずつ,それぞれxyz方向に同じ速さvで運動しているとするもの。

(2)立方体に入っていて,いろいろな運動をしているとするもの。

(3)球形の容器に入っていて,いろいろな運動をしているとするもの。

などが有名である。もちろん全ての場合で同じ圧力

      IMAGE033.GIF - 346BYTES  m:分子の質量,:分子数,:体積)

を与えるのであるが,筋道の長い議論で生徒には難しい部分である。結果だけ見ると,一見議論の過程を忘れてしまいそうであるが,導出したあと次のように大まかに筋道を思い出させるようにしている。

 一辺の立方体ではとなり,下のように分解できる。

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平均の話や,xyz3方向の話が雑であるが,式の導出過程を思い出すには,それなりの効果があるだろう。

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 8.波の干渉の条件式

 干渉の条件式を導くとき,従来は以下の2通りの方法で教えていた。

 (1)同位相で振動する2つの小球が水面をたたくときにできる波面を図に書いて導く方法

 (2)2点から出る波を合成して導く方法

 

ところが,(1)はあまりに経験的で結論に疑問が残るし,(2)はあまりに数学的で解釈が難しいという難点があった。その辺の事を考えて次のような展開を試みている。

 

 2つの小球P,Qを水面に接触させて同位相で上下に振動させたときの水面の様子をプリントを配って作図させ概略をつかませる。次に点PからL,点QからL離れた点Rで波が強めあうか弱めあうかを考える。あるとき点P,Qから波の山が同時に出たとすると,点Pからきた山が点Rに到着したとき,点Qからきた山は点Rをこえて点R’まで進んでいる。PR=QR’=Lである。このとき点Rで波が強めあう条件は,点Qからきた波が点Rで山になっていることであり,点Rで波が弱めあう条件は点Qからきた波が点Rで谷になっていることである。その条件を図2を見て考えると,点R’が山であることから,点Qからきた山が点Rで山であるためにはRR’=(L−L)が波長の整数倍でなければならず,点Rで谷であるためにはRR’=(L−L)が波長の整数倍+半波長でなければならないことがわかる

 

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 9.電気力線の流線イメージ

 電気力線は次のような流線のイメージに置き換えられる。

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 どの方向にも水を噴き出すスプリンクラーのようなものを考える。今,単位時間あたり質量の流体が空間のある点からどの方向にも均等にわき出ていると考える。流体の密度をρ,わき出し点から距離rの点での流体の速度をvとすると,

  =ρ×半径rの球の表面積×v

   =ρ×4πr×v

よって,

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 一方,電荷の点電荷による距離rの点での電界の強さは,クーロンの法則より,

  IMAGE043.GIF - 361BYTES  

これは,vと置き換えれば,上の流体のわき出しの式と同じである。すなわち,電気力線は流体の流線のイメージで置き換えられる。目に見えない空間の電界をイメージするとき,流線のイメージ(=電気力線)は大変有効であり,抽象的な場を表す物理の式もこのような物質的イメージにつなげると,より身近なものになるのではないだろうか。この話は,実際にファラデーが電界や磁界を表すのに物質的流線イメージで電気力線や磁力線を導入し,マクスウェルが力学的にそれらの様子を解析しようとしたことや,ガウスの定理の話につなげても面白い。

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 10.コンデンサーに蓄えられた静電エネルギーはコンデンサーのどこに存在するのか

これは次のように説明できる。

 

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 図のように充電されているとき,蓄えられた静電エネルギーは

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よって,エネルギーは極板間の体積dに比例し,密度ε/2で,この空間すなわち電界に蓄えられている。

 

 コンデンサーについて一通り説明した後,あらためて生徒に問いかけると,その答えは電荷であったり,極板であったりのことが多い。教科書でもあまり注意されていないものもあるので,ぜひ手当しておきたいところである。

 

 同様の事はコイルに蓄えられる電磁エネルギーについてもいえる。

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電流Iが流れている自己インダクタンスのコイルに蓄えられるエネルギーは

IMAGE051.GIF - 297BYTES----- @

一方,

IMAGE053.GIF - 318BYTES----- A

 コイルに生じる自己誘導起電力

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よって,自己インダクタンスLは

   IMAGE057.GIF - 287BYTES----- B

@,A,Bより

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コイルの場合も,コンデンサーの場合と同様にエネルギーはコイル内の体積lに比例し,密度μ/2で磁界に蓄えられている。

 こうしてみると,電界や磁界のような「場」は空間の様子を説明するために便宜的に考えられたものではなく,具体的にエネルギーを蓄えると言うような実態を伴ったものであることが少しは理解されるのではないだろうか。

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 11.「キルヒホッフの法則」の指導について

(1) 各教科書の扱い

 A出版社

 I.回路中の交点に流れ込む電流の代数和は0である。

 II.回路中の任意のひとまわりの回路について,起電力の代数和は電圧降下の代数和に等しい。

B出版社

 Pに流れ込む電流の和は,Pから流れ出す電流の和に等しい。(第1法則)

 起電力の和は電圧降下の和に等しい。(第2法則)

C出版社

 (1)電流の保存  分岐点での電流の総和は0である。

(2)回路の起電力と電圧降下  回路の中の起電力の和は各抵抗での電圧降下の和に等しい。

(2) 教科書の扱いでの困難点

.第1法則は,入る電流を+,出る電流を−として総和を0としても,入る量=出る量としても,理解上大きな問題点はない。

.第2法則では,どの教科書も起電力と電圧降下を分けて考え,両者が等しいとするのは,第1法則と形式が違い統一性に欠ける。

.第2法則で,起電力は仮定した電流の向きに流そうとするのを+としているのは良いが,電圧降下は下がるのを+とするのは混乱する。

(3) 指導例

.静電気の部分で「電位」の考えをしっかり指導する。また,オームの法則を「電流は電位の高い方から低い方に流れ,抵抗により電位は電流の向きにRI[Ω]降下する(RI)」ことをつかませる。

.電池の起電力・内部抵抗の項で,起電力の+側の電位が高いことをつかませる。

.キルヒホッフの法則は次の形で指導する。

 I.回路中の任意の点で,その点に入る電流を+,出る電流を−とした代数和は0である。

 II.回路中の任意のひとまわりの回路について,電位が上がるとき+,下がるとき−とした起電力・抵抗による電位変化の総和は0である。

<利点>

.「代数和を0」とする統一した形式で表せる。

.第2法則も,電位変化がひとまわりして元に戻ると0になることは容易に理解できる。

.一度理解してしまえば,問題演習では機械的にミスなく対応できる。起電力と抵抗による電圧降下を分けるより簡単である。

<困難点>

教科書や参考書類にこだわる生徒は混乱する。特に理解力のよい生徒にみられる。

対応として,式の変形で両者が同じであることをやって見せている。

 

<例>

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 G点         i+i=i

 ABCDFGA回路  E+E=R+R

                      ↓↑

 G点         −i−i+i=0

 ABCDFGA回路  −R−R+E+E=0

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 12.フレミングの左手の法則と右手の法則

 電流が磁界から受ける力の向きはフレミングの左手の法則で,導線が磁力線を切るときに生じる誘導起電力の向きはフレミングの右手の法則で求められるというのはどの教科書にも一般的に載っていることである。しかし実際に生徒に実験室で実験装置を前にしてその方向を求めさせたり,問題を解かせたりすると,以外に迷っている場合が目につく。原因の一つは,右手を使うのか左手を使うのか忘れてしまうことであるが,これに対しては,「物を切るのは右手だから,導線が磁力線を切ったときに生じる誘導起電力の向きはフレミングの右手の法則で求める。」というこじつけ的な暗記法もある。次に左手,右手はわかっても,親指,人差し指,中指がそれぞれ何を表すのだったかで迷ったり,装置や問題の図に各指の向きを合わせるために体をひねっている生徒が出たりで,なかなか滑稽な苦労が多いようである。この部分に関してはアンペールの右ネジの法則と,磁力線をゴム紐にたとえることにより,次のように説明している。

 

 アンペールの右ネジの法則は,17図のように,電流を右手で握ったとき,親指が電流,他の指が磁界の向きを表すことで示される。これをまず生徒にしっかり説明しておく。

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 電流Iが磁界Hから受ける力Fは次の図のように考える。

 

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 ローレンツ力についても,荷電粒子の流れが電流だと考えれば,同様に力の方向が求められる。

 磁界中を運動する導線に生ずる誘導起電力については,ローレンツ力によって下図のように考えることにする。

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 以上の方法はフレミングの左手,右手の法則を持ち出すよりも,よりシンプルであり,原理的であると思われる。

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 謝辞とお願い

 次の各先生方から資料を提供していただきました。大変感謝いたします。

    岩見敏明,坂井 章,市橋 浩,渡辺 正孜,竹田克之,三ツ井富士夫

 

 資料集作成にあたって,こちらで勝手に表題をつけたり,文章を変更したり,また,提供していただいた内容の一部しか載せられなかったものもあり,そのために各提供者の意図が十分伝わらないものがもしあったとすれば,それはすべて私の責任であり,おわび致します。

 

 また,こんな話題もいいよ,というのがあったら資料を御提供下さい。

(江川直人)

 

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