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新潟県パソコン計測用共通インターフェースボードNADVの紹介


目次

1.はじめに
2.インターフェースボードキット化計画の動機
3.計測用ボードの回路構成と機能及び特徴
4.計測ボードと共に供給するソフト
5.計測ボードによる計測例
6.NADVブロック図


1.はじめに

 『多くの人が同じ計測ボードを持つことでパソコン計測の経験を共有していこう』という趣旨でスタートした新潟県理化学協会研究部理科コンピュータグループによるパソコン計測用共通インターフェースボードの作製計画は、最初のプリント基板が完成し県内を中心に頒布を始めてからまる1年をむかえる。NADVと名付けられたこのボードは、試作段階での多くの試行錯誤の後、基板製造業者に発注され、研究会メンバーによる2度の製作会の経験をもとにパターンの改良、パーツの変更等を経て、現在では完成品の形で、県外を含めすでに200セット以上の頒布がなされている。パソコン計測用共通インターフェースボード作製の目的、そのハード的性能の概要、それを用いた物理計測例等について、昨年の夏期研究大会でも紹介したが、今回、コンピュータ計測の検討のため再度発表の機会が与えられたので、一部昨年の紹介と重複するが、その後1年間かけて取り組まれた実践も含め、より具体的な紹介を行いたい。(最終的に約500セットの頒布がなされた)

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2.インターフェースボードキット化計画の動機

 平成6年からスタートする新指導要領ではデータ処理や計測などにコンピュータの活用が明記されている。
 本県でもデータ処理に関してはソフト開発や市販ソフトの利用についていくつか研究発表がなされてきた.また,コンピュータ計測についても先駆的な研究は進められていた。しかし,多くの労力とハードの専門的な知識を必要とするコンピュータ計測に関してはせっかくの研究成果もなかなか多くの人には広まらなかった。
 そこで,キットでボードを供給できればコンピュータ計測に関する研究成果を多くの人で共有できるようになる,との考えが出された。キットは市販品に比べれば格段に安くできるし,製作の労力も汎用基板に組み込むよりははるかに小さい。企画する側には,回路図をプリント基板にするときの業者との交渉や,プリント基板をまとまった数量作ることによる経済的な負担などがあるが,それを上回るメリットがあるであろう。以上がキット化計画の動機であった。

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3.計測用ボードの回路構成と機能及び特徴

 対応パソコンの機種は、現在県内各校で最も多く導入されているNECのPC−9801シリーズである。具体的な回路図は省略するが、ブロック図は図1に示す通りである。
 機能は、音声入力を例にとれば、基本的には、オペアンプを通して取り込んだ音声電圧のアナログデータを高速のA/DコンバータAD7824で8ビットパラレルのデジタルデータに変換(A/D変換)し、Programmabule Peripheral Interface(PPI)と呼ばれる汎用入出力ポートLSIである8255を通して、パソコンのデータバスに乗せられることである。また、パソコンのメモリーに8ビットデータの集合として取り込まれた電圧のデジタルデータは、同じくPPIを通してD/AコンバータDAC0808に送られ、ここで再度アナログデータに変換(D/A変換)され、アンプ、スピーカーを通して、音声として再生する事もできる。8253というLSIはProgrammable Interval Timer(PIT)と呼ばれる汎用のプログラマブルタイマーで、サンプリングタイムといわれる一定の時間間隔でデータを取り込んだり出力したりするためのクロックパルスを作りだし、PPIに送り出している。その元になるクロックパルスは、PC−9801本体からの307.2kHzの信号であり、これをプログラムによる設定で分周することにより任意のサンプリング周波数を得ることが出来るようになっている。取り込めるデータは、もちろん音声のみに限らず、電圧値に変換できる物理量なら原理的には何でも可能である。本ボードの特徴をあげると次の通りである。

(1) AD7824を除けば、他はアドレスデコーダ、オペアンプ回りも含めて、その目的では最も一般的なICを、最も基本的な回路構成で使用し、動作が理解しやすいものとなるように努めた。

(2) A/Dコンバーターに、変換時間が2.5μs以下という高速変換が可能なAD7824を用いた。このA/Dコンバーターはクロック信号を用いる必要がなく、アナログ入力の前段にサンプル&ホールド回路を設ける必要もないため、回路をシンプルにすることが出来る。また、プログラミング上でも変換スタートや変換終了等の処理が必要なく、いきなり読み込み命令のみでよいため、取り込み部分のプログラムもシンプルにすることが出来る。

(3) 4チャンネル入力であり、それらをプログラムで選択することが出来る。
 チャンネル1 ・・・・ マイク入力用、基板上のスイッチの切り替えでO〜5Vの入力も可能。
 チャンネル2 ・・・・ レベルシフト回路で-2.5〜+2.5Vの入力用
 チャンネル3 ・・・・ 差動アンプの入力回路でO〜5Vの入力用
 チャンネル4 ・・・・ ボルテージフォロア回路でO〜5Vの入力用

(4) D/Aコンバータも組み込まれている。

(5) マイク入力のためのプリアンプや、スピーカー出力のためのオーディオアンプが組み込まれているため、マイクとスピーカーを取り付けるだけで音声の取り込み、再生が容易にできる。

(6) 上位8ビットのアドレスがディップスイッチにより任意に設定できるため、他のボードとの共用の面で自由度があり、本ボード複数の利用も可能である。
 下位の使用アドレスは下記の通りである。
  D0H ・・・・ 8255 Aポート(入力)
  D2H ・・・・ 8255 Bポート(出力)
  D4H ・・・・ 8255 Cポート(上位:入力 下位:出力)
  D6H ・・・・ 8255 コントロールワードレジスター
  D8H ・・・・ 8253 カウンタ1
  DAH ・・・・ 8253 カウンタ2
  DCH ・・・・ 8253 カウンタ3
  DEH ・・・・ 8253 コントロールワードレジスター

(7)8255の使用されていないポートPC6、PC7が入力として利用可能なため、アナログデータの入力のみでなく、デジタルデータの取り込みも適当な若干の回路を付加すれば可能である。たとえば、フォトセンサーを入力センサーとして運動物体の位置を検出し、それを8253と連動させて速度、加速度を求めるような形で、物体の運動の解析を行なうことも可能である。これについては岡山県高等学校理科協議会物理部会による多くの実践報告がある。基本的にはセンサーの出力を8255のポートに取り込むだけなので、簡単なセンサー部分の回路の付加により岡山県グループの大部分のものが本ボードでもソフトの対応により実現可能のはずである。

 (2),(3),(6)に関連してチャンネル1からデータを取り込み、それを画面に表示する最も基本的なBASICのプログラムを次に紹介する。

 10 OUT &H00D6,&H98   :'8255モード設定
 20 OUT &H00D4,&H0    :'入力にチャンネル1を設定
 30 PRINT INP(&H00D0)   :'データの取り込み
 40 GOTO 30         :'繰り返し

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4.計測ボードと共に供給するソフト

 次の(1)〜(3)のソフトがキットと共にフロッピーディスクで供給されている。これらのソフトがボードのハード的性能を十分に引き出しているとは言えないかもしれないが、その概要を示すことにより、この計測ボードの可能性を実感していただけたらと思う。

(1) NADC.EXE
 第1チャンネルから第4チャンネルまで全てのチャンネルを通した測定に対応する。特に第1チャンネル(音声信号入力)取り込みデータ用には64Kバイトのメモリーを3個持っていて、そのメモリーとサンプリング周波数を指定して、データの取り込みを行なう。取り込まれたデータは、横軸時間、縦軸電圧のグラフに表示される(メモリ付きオシロスコープとして利用できる)。また、それをDAコンバーターを通して再生させることもできる。以下、ソフトの特徴は次の通りである。

(a) できるなら、生徒に自由に使わせたいということから、直感的なものを大切にし、操作はできるだけ簡単に、表示も常にグラフを主に表示するようにした。
(b) 取り込み対象を音声に限定せず、できるだけ汎用性のある、多目的なものとなるように努めた。あともう少しのプログラムの追加は必要だが、基本的にはこれで運動の解析にも対応できるはずである。
(c) 入力は、ファイル名の入力以外はすべてマウスで、すべての場面でその基本操作は共通である。すなわち、左クリックでポップアプメニューの表示と選択またはポイント設定、右クリックでキャンセルである。
(d) サンプリング周波数は1〜30kHzの範囲から選択できる。取り込み継続時間は、たとえば、メモリーの大きさ最大64kBの場合、10kHzサンプリングで6.4秒間である。
(e) グラフ表示の場合、時間軸の一目盛りを0.1msから5sの広い範囲で変化させることができ、これにより波形の細かい観察、運動解析においては時間の測定に利用できる。
(f) 高速フーリエ変換(FFT)を行い、そのスペクトル分布のグラフを表示できる。
(g) 取り込んだ二つの波の重ね合わせを行い、それを実際に音で聞くことができる。
(h) チャンネル2〜4については、リアルタイムで画面いっぱいの大きな数字でその値を表示すると同時にグラフ表示する。数値のみの表示、グラフのみの表示もできる。測定時間間隔は0.1秒から1秒の範囲で選択できる。NADVは8ビットのADコンバーター登載なので内部では0(00H)〜255(FFH)の数値で処理されるが、それらを任意の数値幅に対応させて表示することができる。すなわち、たとえば00Hを0Vに、FFHを5Vに対応させれば、0〜5Vの数値を直接表示し読み取ることができる。したがって各種センサーからの出力をOPアンプで調整すれば新たにプログラムを組まなくともとりあえず測定値を読み取ったりグラフ表示したりできる。

(2) ADC.EXE
 発想は異なるが、目指したものは上記(1) のソフトと共通のものがある。操作はやはりすべてマウスで、画面上部にあるメニューバーの選択によるプルダウンメニューからすべての動作に入る。音声に対応するような高速取り込みは1つのチャンネルだけでなく、4つのチャンネルすべてについて可能であり、さらに複数チャンネルの同時取り込みも可能である。たとえば、電流と電圧を同時に測定したいときなどには、チャンネル3をメモリー1へ、チャンネル4をメモリー2へ取り込むというふうに、同時に2つのチャンネルを使うことも可能である。サンプリングタイムは10μs〜100msまで12通りの選択ができるようになっている。FFTによるスペクトル分布のグラフ表示機能もあることは (1)と同様であるが、さらにこのソフトでは、スペクトル分布のグラフ表示の振動数を順次クリックすることにより、FFTにより求めた各振動数成分の強度や位相の要素を再合成し、元の波形に近いものを作り出すこともできる。

(3) STCHART.BAS
 測定対象を0.1秒より遅い現象を想定し、記録紙にデータを記録する装置をイメージして作られている。リアルタイムで画面が右から左に横スクロールして電圧変化を画面に表示していく。ループになっている画面が10ページあり、第1ページに戻ると画面が更新されていく。矢印キーで画面を前後に動かすことができ、メモリースコープの機能もはたしている。

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5.計測ボードによる計測例

 本ボードにより取り込み解析できる現象は、基本的にその現象を電圧値に変換したデータであるが、そのためにはその現象に対応したセンサー及びそれを駆動またはボードの入力とマッチングさせるための付属回路が必要である。共通インターフェースボード作製の趣旨から、このセンサーや付属回路も特にエレクトロニクスやコンピュータに強い人のみができるというものではなく、理科の教員ならそれまでの蓄積をもとにだれでも実現可能なものでなければならないと考える。そのため自作の場合はできるだけシンプルなものを目指し、市販品で利用できるものならそれを利用し、他で発表されたものでも容易に我々のボードで使えるものならそれを利用する、ようするにあるものはなんでも利用しようと考えている。したがって、以下に研究中のも含めて本ボードによる計測例をいくつか示すが、その原理・方法は必ずしも新しいものばかりではなく、すでに他で発表されたものもある。先に述べたように、いかにしたら共通のインターフェースボードをもとにパソコン計測の経験を共有できるかに取り組みつつある我々の記録である。

(1) 音声の取り込みとその解析
 計測ボード開発時にまず考えたのは音声の取り込みであった。なぜならハード的にもソフト的にも速くて技術的に難しい現象は音声であり、他の現象はこれより遅いからである。マイク入力のためのプリアンプやスピーカー出力のためのオーディオアンプが組み込まれているため、マイクとスピーカーを取り付けるだけで音声の取り込み、再生が容易にできる。

(2) 電圧変化のリアルタイムでの観察
 電圧変化はO〜5Vにつてはチャンネル1、3、4、-2.5〜+2.5Vについてはチャンネル2の端子から直接取り込むことができて、3に紹介したソフトで数値を読み取ったり、グラフで観察することができる。コンデンサーの充放電やコイルの誘導記電力の観察は、特別な回路も必要なく、用意されたソフトですぐできることである。

(3) 温度の測定
 温度センサーとしては、サーミスタ、白金抵抗、熱電対、ICセンサー等いろいろ考えられるが、出力電圧が温度とともに直線的に変化し、0℃から100℃程度まで簡単に測定できるIC温度センサーの例を示す。

(4) コイルと磁石による重力加速度の測定
佐賀県の東嶋先生が発表されたものであるが、我々のボードでも簡単に実現できるので紹介する。図のようにアクリル管に1本のエナメル線を切らずに10回位ずつ等間隔に何箇所か巻き、その中を小さな磁石を落下させると、コイルに生ずる誘導起電力の時間的な間隔から重力加速度を求めることができる。NADVによる測定例を示す。

(5) 半導体圧力センサーによる気体の圧力測定
 半導体圧力センサーを使った大気圧センサーユニットが、使用されている圧力センサー本体よりも安価に販売されている。気圧に応じた電圧が出力されるので、これを直接NADVに接続するだけで気圧が測定できる。注射器で圧力を変化させればボイルの法則も検証することができる。

(6) コンデンサー容量のリアルタイム測定
 タイマーIC555を用いてコンデンサーの容量に応じたパルス幅を発生し、それを8255で取り込み、8253でそのパルス幅を数えることにより、容量を測定することができる。いろいろな大きさのアルミ板と、その間にはさむいろいろな厚さの絶縁板を用意することにより、C=εS/dの関係を簡単に見せることができる。

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6.NADVブロック図

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