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 工作の楽しみ

  目次

  0.はじめに
  1.紙や布を使った工作
  2.木工作
  3.電気・電子工作
  4.パソコン工作
  5.おわりに


0.はじめに

 子供の頃、手を動かして何かを作る、場合によっては壊すことが大好きでした。基本的にそれは今でも変わりませんが、おとなになってからは多少理屈っぽくなってしまったようです。楽しそうだと思っても、手出す前にあれこれ考えてしまい、場合によっては作りもしないのに作った気分になったり、作る過程が楽しいはずなのに手を出すのがおっくうになったりで、気がついたら昔のように純粋に工作を楽しむというわけにはいかなくなっていました。しかし、子供がある程度成長し、昔自分が工作を楽しんだ年齢になってくると事情が変わってきました。子供が作るのを見ていたり、せがまれて一緒に作ったりするうちに、再び工作そのものを楽しめるようになってきたのです。場合によっては自分一人で昔の続きを楽しんでもいます。以下、昔作って楽しい思い出の残っているものや、最近子供と、または一人で作ったものを紹介します。といっても、まったくオリジナルなものはほんの一部で、ほとんどどこかに出ていたものか、その変形です。そんなものなら私も昔作ったよとか、いい歳して何をやっているか、わざわざ時間をかけなくとも既製品でもっと性能の良いものがあるのに、などと言われそうですが、工作が楽しいのであり、作って遊ぶのが楽しいのです。ここは新理科教研の機関誌なので、「教育的な意義は?」とか「授業との関係は?」と言われると困ってしまいますが、仮説社の『ものづくりハンドブック1』にあるように、「本当にたのしいことは、そこに何か本質的なものが含まれている」と考えます。科学の祭典を見るまでもなく、子供はみな工作が好きなのではないかと思います。昔を思い出し、再び工作を楽しんでみませんか。

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1.紙や布を使った工作

(1)ころがるピエロ
 名前は勝手につけました。県立自然科学館の展示物の中にあったものです。そのユーモラスな動きが忘れられず、家に帰ってから記憶を頼りに子供と試行錯誤してみました。坂道もフェルトを敷けばいいのですが、タオルで代用しています。後でわかったのですが、これは西ドイツ製のおもちゃで、「コロコロくん」の名前で国内でも販売されているようです。

(2)モビール
 だれでも知っているおもちゃです。何でもつり下げ、バランスをとればモビールの出来上がり。空気の動きと微妙なバランスによるその動きは見ていて飽きません。つるされたものどうしを更に糸でつなげるバリエーションもあります。子供にとっては力のモーメントの概念を学ぶ好材料でもあります。武山忠道著『モビールをつくる』(創和出版)に楽しい例がたくさん載っています。

 

 

(3)モビール応用のはばたく鳥
 市販品ではカモメの形をよく見かけます。下のひもを少し引いて手を離すと大きな羽をゆっくり羽ばたかせます。市販品を見て、一度作ってみたいと考えていたのですが、前記の『モビールをつくる』に複数の例が載っているのを見つけ、さっそくまねしてみました。ある程度大きく作らないとゆっくり雄大に羽ばたく感じになりません。バランスをとるのが単純なモビールよりやっかいですが、一つ完成させればこれもいろいろ応用が利きそうです。実際は木工作です。

 

 

 

 

 

(4)バランストンボ
 前に他県の科学の祭典パンフレットで見かけて作ったときは型紙が無かったので一匹指の上にとまらすのに1時間位かかってしまいました。しかも最初は大きかったものが、はねやしっぽを少しずつ切ってバランスをとっているうちにずいぶん小さくなってしまいました。『ものづくりハンドブック4』(仮説社)に載っている実物大型紙を使えば誰でも数分で出来てしまいます。型紙無しで作ったほうが工作としては楽しいようです。

 

 

 

(5)ダンボールで作るミニ四駆コース
 ミニ四駆は、子供たち、特に男子小学生に大人気で、今日本で一番売れている模型だと言われています。メーカーによると平成9年時点で累計1億5千万台を出荷したということです。日本の単三乾電池消費量の15%はミニ四駆によるものではないかという推定もあります。中学生になるとミニ四駆は卒業するようですが、隠れファンはかなり多く、その人気は大人にもおよんでいるとのことです。ミニ四駆はやはり大きなサーキットコースで走行させるところにレースの醍醐味があるのですが、本格的なコースは高価で子供の小遣いでは厳しいようです。まして競技会用のコースは個人では手が出せません。そこで、本物にはとても及びませんが、ダンボールでコースを作ってみました。コーナーは本物も円周になっていますが、小さなコースでもコーナー突入部法線方向の加速度は大変大きいらしく厚紙でももちませんでした。実際の高速道路やジェットコースターの曲線はクロソイド曲線になっていて車体や乗員に急激な衝撃を与えないようになっています。ミニ四駆にもし人が乗っていれば最初のコーナーで気絶か骨折、場合によっては即死しているかもしれません。

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2.木工作

(1)杉鉄砲・木の皮をむいた鞘付き刀
 いずれも小学生のころよく作って遊んだ物です。鞘付き刀はなんの木の枝か忘れてしまいました。ある特定の木で、特定の季節でないとうまく引き抜けませんでした。故郷は田舎であったので近くの山に材料はいくらでもありました。今では故郷の子供たちもこんな遊びはしていないと思います。

 

 

 

(2)本立て・ブックエンド・ペン立て
 小学生の時の初めての実用性ある木工作品が本立てであったという人は多いと思います。最近の小学校(うちの子の場合)ではいきなり糸のこを使って動物の形の白板を作ったりするようです。図は最近作った簡単なブックエンドです。材料は中学校教員をしている妻が、勤務先の学校で捨ててあった技術家庭の生徒の作品をもったいなく思い拾った物です。名前も記入してあり、本人に確認して持ってきたのだそうです。我々の年代だったら考えられないことです。我が家にはこういう板の切れっ端がけっこうストックしてあります。私はそれをバラして別の形に組み直し、紙ヤスリで表面を整えたのみです。ノコギリは使っていません。初めはいったい何を作ろうとしたのでしょうか。ペン立ても同様の材料で、ドリルで穴を開けただけです。どちらもけっこう使えます。

 

(3)ゴムパチンコ応用のライフル銃
 これも小学生の時に何個か作って遊んだものです。友達のも作ってやったりしていました。今の子供には危なくて教えられません。弾は乾燥した豆です。命中精度や弾を込めたときの安定度を上げるため、ゴムの強さや銃身の長さ、引き金の形や大きさを工夫した記憶があります。うまく作れば、10m位離れた10cm程度の大きさの的には当たったと思います。昔の思い出です。

 

 

(4)ゴム動力の船と潜水艦
 ゴム動力のスクリュウを船の形の板に付けただけで完成です。ちょっと手のこんだものをというのであれば、削ったりくりぬいたりということになります。我々の年代の多くが体験しているのではないでしょうか。よく近くの池で友達と遊んだのを記憶しています。ゴム動力のスクリュウなんて今時売っているのだろうかと思ったのですが、近所の小さな模型店にありました。市内他の地区からこれを買いに来る子もいるのだそうです。市内中央部の大きな模型店には無いのかもしれません。ビーズやゴムも一個、一本単位で売っていました。おもりをつけて調節すれば潜水艦にもなります。図はデザインを『西岡忠司のウッドクラフト入門』(山と渓谷社)に載っていた物を真似たものです。お風呂で楽しめます。

(5)スピーカーボックス
 高校時代後半から大学時代前半にかけて何組か作りました。母が音楽の教員だったこともあり音楽はよく聴き、大学卒業時はレコードもクラシックを中心にけっこうあったのですが、転勤や結婚で置く場所が無くなり、自作のアンプ類も含めて全部実家に送り返してしまいました。自作スピーカーも人にあげてしまい1組も残っていません。その後、レコードがCDに変わってしまったわけですが、最近になり浦島太郎の気分でまた昔聴いた音楽をCDで聴くようになりました。しばらくはCDラジカセで聴いていたのですが満足できなくなり手を出したのがスピーカーボックスの自作です。どうせ作るのならばと最初は欲張ってしまい自分の工作能力以上、と言うよりも自分の持っている工具(板を切る工具は両刃ノコギリとマワシビキと糸のこのみ)以上のものを考え、図面を近くの木工店に持っていったところが材料は別でカットだけでワンカット100円としても約3万円と言われ予算オーバー。スピーカーボックスといっても結局は精度の良い箱を作る訳なので工作上は板の正確なカットができるかどうかにかかってきます。正確にカットされていれば組立は接着剤だけでも可能です。オーディオ雑誌に載っている評論家の製作記ははとんどプロにカットしてもらっているのではないでしょうか。結局、できるだけホームセンターにあるカット済みの板を使うことに方針転換し、できたのがダブルバスレフ方式のキャビネットです。この方式は動作が複雑で、一応の計算式はあるのですが正確な解析も理論もできていないということでメーカー製では目にしませんが、工作はバックロードホーン方式より遙かに容易です。ところで、私の物理の授業では、波の一般的な性質と音波を一通り終えた後、スピーカーの話をすることにしています。なぜ裸のスピーカーだけではいけないのかから始まって、平面バッフル、後面開放箱、密閉型、バスレフ型、バックロードホーン等について定性的な周波数特性も含めて触れます。なぜドロンコーンやダクトをつけると位相が反転するのか、バネにおもりをつるして持ち、その手を上下に振動させて説明します。クラスに何人かは興味を示す生徒がいるようです。

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3.電気・電子工作

(1)電磁石とブザー・モーター
 私が小学生だった頃(昭和30年代後半)にもキットはあったのかもしれませんが、田舎で目にしなかったのでもっぱら釘や木ねじ、トタン板、それにエナメル線で作りました。6年生の頃は電流計やテスターもどきのようなものも自作しました。コイルに電流を流せば磁石になることさえ認めれば、ブザーやモーターの仕組みは簡単に思えたのですが、なぜ電流を流せば磁石になるのかがどうしてもわかりませんでした。次の学年ではきっとわかるに違いないと考えながら大学まで来てしまったような気もします。

(2)ステレオアンプ
 中学3年の時に技術家庭で真空管のラジオを組み立てたことから真空管やトランジスタ回路に興味を持ち、入門書を何冊か読みました。高校生の頃が新鮮な興味のピークで、工作技術のピークは大学生から就職したての頃でした。これはもっぱら経済力の問題です。回路素子的には真空管からトランジスタ、費用の関係からアンプはトランジスタでしたが、初期の入力トランスや出力トランスのあるものから、作動増幅回路、最終的にはDCアンプの出現と続き、いろいろなものが時代の進行と同時進行で体験できた良い世代であったのではないかと思います。これはパソコンについても同様で、大学4年・就職のころが自作ワンボードマイコンの時代でした。パソコンとはそれ以来のつきあいです。この分野は現在ではもう完成されたメーカーの時代になってしまい工作派としては少しさびしい感じです。満足度と言う点から、もうステレオアンプを自作する元気はありません。最小の予算、最小の労力(結局、最大の労力になってしまうのですが)で最大の自己満足をと言う点では、この分野では前記のスピーカー工作しか残されていないのではないでしょうか。あくまでも自己満足ですが、これならメーカーとも争えそうです。

(3)ニカド電池の充電器と放電器
 前記ミニ四駆工作に関連して何個か最近作りました。一般的に鉛蓄電池は定電圧で充電しますが、ニカド電池は定電流で充電します。本当の定電流でなくとも、ニカド電池に直列に電流制限用の抵抗を接続し、ニカド電池の電圧の5〜10倍の電圧をかければほぼ定電流になるのでその程度でいいようです。下図は10年前の秋月電子のキットにあったものです。大変簡単な回路です。

 これを下図のように組みました。

 メモリー効果防止用の放電器は豆電球を光らすだけです。電圧モニター用に粗大ゴミに出されていたオーディオ機器のメーターを付けました。放電は端子電圧が素電池1個当たり1V程度でやめたほうがよいので、それがわかるようにマジックでメーターの目盛板に書き込みをしてあります。これなら小学生の我が子でもその仕組みがわかります。この辺は電池の内部抵抗に関する良い教材です。粗大ゴミは電子パーツ抜き取りの宝庫だったのですが、新潟市では新ゴミ出し方式の採用により出来なくなってしまいました。残念です。

(4)太陽電池によるICラジオ
 いつも強い日差しの夏になると、この光を使って発電できたらと思います。本当は太陽電池パネルを屋根に設置した本格的な自家発電が夢なのですが、まだ大変高価です。それでせめてラジオでもと考えました。ラジオも自作にこだわりたいなら雑誌『ラジオの製作』(電波新聞社)を立ち読みして下さい。誌名の通りよく製作記事が載ります。ワンチップのラジオ用ICを使えばそこそこのものがコンパクトにできますが、最近ではホームセンターで千円もしないで格好いいものが売られています。この辺が自作派にとってはいやな時代ですがめげずに頑張りましょう。

(5)室内アンテナ・無電源でスピーカーを鳴らす鉱石ラジオ
 電子工作はここから始まると人には言いながら実は作ったことがなかったのですが、最近挑戦してみました。屋根裏に10mくらいのアンテナを張り、アースをきちんと取れば新潟市内ではクリスタルイヤホンでバンバン聞こえます。あまりよく聞こえるので欲張ってスピーカーを鳴らせないかと考えました。しかも電源なしで。もちろんそのままではだめです。検波出力をトランスとコンデンサーで直流成分と交流成分に分けて、直流成分でコンデンサーを充電させ、それをトランジスターの電源にしてスピーカーを鳴らそうという発想です。トランジスタはもちろんゲルマニウム、スピーカーは昔の出力変圧器つきのものです。理由は物理的に考察すれば、おわかり頂けると思います(単なる懐古趣味からではありません)。試行錯誤の末、静かな部屋でなら何とか聞こえる程度になりました。実用的には今一歩ですが、シンプルな構造と電気料金無しでいつでも聴けるという精神的満足感に浸ることができます。

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4.パソコン工作

(1)バーチャル工作としてのアマチュアプログラミング
 「無限の可能性を秘めた」というチャッチフレーズのもとに出てきたワンボードマイコンの組立から始めたパソコン工作ですが、もう20年も前のこととなってしまいました。当時と比べれば比較にならないくらい進化したCPUと膨大な記憶容量を持ったマシンを前に工作派は唯たたずむばかりです。完成されたパーツをそろえてソケットに差し込むだけのPC互換機組立はプラモデルでいえばスナップキットのようで工作を楽しむという雰囲気ではありません。しかし、その進化したハードに支えられて言語ソフトは格段に使いやすくなっています。今日思いついたことが、明日にはきれいなWindows上の画面で動いているのも現実です。ブログラミング言語の価格も上位のものをと欲張らなければ驚くほど安価です(教員はアカデミックパッケージを購入することができる)。せっかくのパソコンをワープロと表計算だけに使うのはもったいないと思います。自分だけの何か創造的な利用を模索できたらと考えます。図はいろいろな力学ポテンシャル上での物体の運動のシミュレーションとWindows95付属のサウンドレコーダーで取り込んだ音声波形の解析の画面です。Visual Basicを使用して組みました。

(2)それでもやはり半田付けにこだわる
 パソコン本体は無理でも周辺付属物としてちょっとした電子工作物を加えることによりパソコンの利用が広がる場合もあります。写真ははWindowsパソコンのマイク端子を利用して物体の速度を測定するための回路です。運動物体によりフォトトランジスタに入力される光がON・OFFされ、それにともない約1kHzの方形波の出力がON・OFFされます。それをマイク端子で信号の有り・無しとして拾い、物体の速度を測定しようというものです。この他、プリンタなどを接続するためのパラレルポートの利用も我々アマチュアに手の出しやすい部分です。ロボットなどの電子おもちゃを接続して遊ぶことも可能です。もう一つの写真はパラレルポートに接続するためのA/Dコンバータをのせた回路です。

 

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5.おわりに

 かなりの部分が子供のころの思い出話になってしまいました。その程度のものかと笑ってください。そのつもりでなくとも、物理の授業でこんなことやってみたぞと見せたり話したりする材料が、この程度の工作からでもけっこうあります。何かのきっかけで工作好きの子供が増えれば、ものづくり日本を支える次の世代を育てることにつながるのではないでしょうか。

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