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身近な表計算ソフトによる実験データの処理
     −−−アシストカルクを用いて−−−


目次

1.はじめに
2.ソフトについて
3.アシストカルクの特徴
4.実験データ処理用ワークシートの例
5.おわりに


1.はじめに

 コンピュータの活用がうたわれた新学習指導要領実施を目前にし、県内普通高校のほとんどに授業での利用を前提としたパソコンの整備が進みつつある。その設置形態は多くの理科教員の望む形態、すなわち実験室・準備室への設置ではなく、1教室に集中して設置される集中管理方式であるが、いままで理科授業での生徒用の複数のパソコンの利用など考えられなかった状態の学校がほとんどであるのと比べると大きな前進といえる。理科でのコンピュータ利用の形態としては、情報の選択・検索、実験データの処理・グラフ化、センサーによる実験の計測・制御、実験できない事象のシミュレーション、通信による情報の収集等考えられているが、ここでは前記のようなパソコン整備の現状のもとでも現場での工夫により比較的手をつけやすいと思われる実験データの処理について現在模索中のことを紹介したい。

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2.ソフトについて

 生徒にパソコンを用いて現実にデータの処理をさせる場合、問題の一つはそのソフトである。これについては (a)BASIC等のコンピュータ言語を用いて自分で作成する、 (b)表計算ソフトを使う、 (c)市販を含め他人の作ったものを利用する、の3通りが考えられるが、 (a)は教員の負担が大きすぎ、誰でもできるというものではない。 (c)については市販のものは現状ではその存在を知らない。こういう状況ではそのうちどこかの理科教材屋が発売するかもしれない。また他の教員が作成したフリーウェア的なものでもよく、県内でも実践報告がいくつかある。いずれの場合も、それぞれの教員の力点のおきかたの違いもあり、各教員の授業に密着したものとしてすぐ生徒に利用させられるかというと難しい面もある。現状では、労力少なく我々教員個々の意志を最も反映し易いのは (b)であるように思われる。一般に表計算ソフトの中で最も有名なのはロータス1・2・3であり、それを用いた実践報告も最近みかけるが、それをパソコンの台数分揃えるのは本県では難しい。ここでは県内の多くの学校で、パソコンと共にその台数分、県から供給されている表計算ソフト「アシストカルク」についてロータス1・2・3とも比較しながらその利用を探ってみた。

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3.アシストカルクの特徴

(1) 県内ほとんどの学校で今すぐ生徒に利用させることができる。理由は上に述べた通り。
(2) 価格が安い。
(3) 大まかな機能の枠組み、機能の選択方法などはロータスと共通で、ロータスを使った経験のある者ならばほとんどマニュアル無しで使える。
(4) グラフと表を画面に同時表示できる。これにより実験データとそのグラフ表示が画面の切り替え無しで行える。これはロータスではできない(リリース3ではできるらしいが)。
(5) 画面の分割数が多い。ロータスでは画面の縦・横同時分割はできないが、アシストカルクではできる。
(6) マクロを独立したシートに保存できる。これによりいろいろなシートで共通な処理は別シート記述しておき、必要に応じてメニューにより呼び出すことも可能になる。また[SHIFT]+ファンクションキーの設定が自由にできるので、アシストカルクを起動と同時に自動実行で外部マクロによりキーの設定を行ってしまえば、それ以降の目的のマクロプログラム中で共通にその設定でキーを使うことができる。ここにシートの読み込み、保存、マクロの実行等の基本的操作を設定しておけば、生徒への指示が非常にしやすいものになると思われる。
(7) マクロプログラム中で分岐先にラベルを使える。これと字下げやコメントの挿入を行えば、見にくいマクロもよほど見通しがよくなる。

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4.実験データ処理用ワークシートの例

 生徒にとってはその操作が、教員にとってはそのシートの作成がという意味で手軽にできるを目標にした例を二つ紹介する。今まで使っていた実験プリントのイメージに出来るだけ近く、パソコンは電卓がわりにという感じになればという思いでシートを作ってみた。二つとも物体の運動を記録した紙テープの処理用である。PSSCの登場以来、記録タイマーはあらゆる学校に浸透しきっている。ところがこれが煩雑なデータ処理に振り回され、むしろ概念形成を妨げる傾向さえ生み出しているとの指摘もされているが、ここにパソコンを高級電卓として導入したらということである。

(1) 台車の運動解析への利用

 画面表示例を図に示す。

マクロメニューは以下の通りである。
   
 [データ入力] ・・・・ 紙テープから O.1秒毎に進んだ距離を測定し入力する。
 [計算] ・・・・・・・・・・ 各時刻の速度・加速度を計算する。
 [グラフ表示] ・・・・ グラフを画面表示する。
    [s−tグラフ] ・・・ 距離−時間のグラフを表示する。
    [v−tグラフ] ・・・ 速度−時間のグラフを表示する。
    [a−tグラフ] ・・・ 加速度−時間のグラフを表示する。
 [印刷] ・・・・・・・・・・ 表とグラフの印刷
    [グラフ印刷] ・・・・・ グラフのみ印刷する。
    [表印刷]   ・・・・・ 表のみ印刷する。
    [画面印刷]  ・・・・・ 画面の通り印刷する。
 [データ消去] ・・・・ 新たなデータ入力のため、今までのデータを消去する。
 [終了]

(2) 重力加速度測定への利用

 画面表示例を図に示す。

マクロメニューは以下の通りである。
   
[データ入力] ・・・・ Δxの入力
[計算] ・・・・・・・・・・ 速度計算と速度−時間グラフの表示
[印刷] ・・・・・・・・・・ 表とグラフの印刷
[データ消去] ・・・・ 現在のデータを消去
[終了]

 (1)、(2)ともにディスクに対する保存・読み込み・ファイル一覧、マクロの再起動等はファンクションキーで対応している。

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5.おわりに

 パソコンを使って実験データの処理をさせる場合、それがブラックボックスにならないように何らかの形でその処理内容の十分な説明を前もってすることは欠かしてはならないと思う。紙テープの処理のようにいろんな場面で何度も出てくる場合は、最初はすべて手作業で処理させるのがよいかもしれない。また、一つの教室内でも、全ての生徒に画一的にパソコンで処理させるということにも拘らなくともよいかもしれない。一度全員にパソコンによる処理を経験させることも必要と思うが、それ以後は、その興味や能力に応じて、手作業、電卓使用、パソコン使用いろんな状況が一つの教室にあってよいのではないだろうか。要は計算やパソコンではなく、物理の現象そのものの理解にあるのだから、その方法にはそれほどこだわる必要がないのではないか。紙テープによる台車の運動の解析を例にとれば、いろんな押し方をしてみて、力と速度や加速度はどんな関係があるのかグラフにしてみて解析する。そして、その結果をまた次の実験にフィードバックさせる。そのつながりがスムーズにいけばよいのである。それが運動の法則を調べるというような場合、紙テープの多さがその処理の煩雑さを招き、現象の理解を遠ざけてしまう傾向があるということである。実験をして、その処理をして、また実験をしての繰り返しが限られた時間内にスムーズに行えたら素晴らしいと思う。パソコンはその大きな手助けになる可能性がある。さりげなく実験室に何台かパソコンが置いてあり、必要に応じて生徒が使える状況が理想だと思うがいかがだろうか。そういう意味では理科におけるパソコンの利用もまだまだ遠いような気もする。
 アシストカルクについては、本音を言えばあまりの値段の安さに本当に使えるのかなという気持ちも半分あったのであるが、調べてみて初めて大変な機能をもったソフトであることがわかり、すっかりそのとりこになってしまった。マクロプログラムも考えられるいろんな状況に対応したものを、などと考えるときりがないが、今後は中学校である程度パソコンにふれた生徒が入ってくることでもあるし、そう神経質にならなくてもいいのではないだろうか(他人に使わせるのである程度のエラートラップの対策は必要かもしれないが)。ここで紹介したものなどはそれぞれ30行、20行程度のものである。せっかくどの学校にもあるソフトなのだからおおいに利用してみてはいかがでしょうか。(アシストカルクそのものは発売されてから数年になり、以上のようなことはもうとっくに試された方もおられると思うが、そういう方に対しては今回の内容は赤面のいたりです)
 以上の内容は、実は高教研理科部会の理科におけるコンピュータ活用研究委員会で、委員になったものは何か授業実践をやれという話が水面下であり、苦し紛れに二三日調べたり試したりした事の紹介である。高教研の話が結局つぶれたり、時間的にもその余裕がなかったりで、今年は実際に授業で試してみることが出来なかったが、来年度は何らかの形で生徒に使わせてその反応を見たいと考えている。すでにいろいろ試された方がおられたらぜひ教えて頂きたいと思う。

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